2010年12月11日 連載11

中2女子5人組の熱演
地歌舞伎、地元愛育む

9月5日の日曜午後、木造の劇場、かしも明治座を埋めた600人の観客は、加子母中学2年の女子生徒5人の名演技に、大きく、長く続く拍手と、おひねりで応えた。
この劇場は明治27年に完成した。樹齢400年の巨木を梁に使っているので、客席は支え柱がないすっきりとした構造だ。岐阜県の重要有形民俗文化財に指定されている。東濃地方は地歌舞伎が盛ん。加子母では戦後、途絶えていた地歌舞伎を昭和48年に復活させた。今回が38回目だ。
満員の会場は、蒸し風呂のよう。若い女性の舞を皮切りに、小学生演じる子ども歌舞伎、中学生が挑戦した大人の出し物、最後はプロ顔負けの大人の歌舞伎、と続いた。
中2女子5人が出演したのは「世迷仇横櫛(よにまようあだなよこぐし)」という江戸後期の作品。悪代官から家族を守るために川に身を投げたおりんは盗賊に助けられる。いつしかお上から追われる身になった横櫛おりんは、娘たちの暮らす村に立ち寄り、再会。視力を失った娘を救うため、自らの命を絶つ——。
目明かし役を演じるベテラン、伊藤亮子さん(69)だけが大人で、後の5人は、中2の女生徒。おりんを桂川広乃さん、その娘で目明かしの妻、うめを丹羽甲(こう)さん、きくを青山ゆり子さん、盲目のはなを藤本真理乃さん、きくの婚約者、静之助を伊藤さんの孫、桃子さんが、演じた。
息を引き取るおりんに、娘たちが取りすがる最後の場面では、観客のあちこちでタオルで目頭を抑える人がいた。私は8月10日以降、5度ほどけいこを見学していたのでストーリーを知っていた。なのに熱いものがこみ上げてきた。それだけ彼女たちの演技に訴える力があったのだ。
5人の歌舞伎歴は4〜6年。中でも桂川さんと丹羽さんは「将来は大人たちが作る加子母歌舞伎保存会に入って演じ続けたい」と頼もしい。
しっかりした演技をする彼女たちがいったいどんな将来像を描いているのか、尋ねてみた。加子母には高校がない。特に女性が中学を卒業して外に出て行くと、まず地元に戻らない。それが一時期の過疎化に拍車をかけてきたという話を耳にしていたからだ。
だが、5人中3人は「地元で働きたい」と言う。桂川さんは高卒後、専門学校に入って美容師に、丹羽さんは自然食品店の経営者に、藤本さんは保育士になりたい、と。
脱出派の青山さんは、都会でケーキ店を開いてパティシエに。伊藤さんは、場所はどこでもいいから薬剤師として働きたい、としっかり話す。
加子母中学の2年生は38人。夏休みに農家や工務店、美容院などで仕事を実体験する学習をしている。彼女らが都会の中学生に比べ、しっかりした将来像を描くのには、そんな背景もある。
中でも5人組の過半数が地元志向を示すのは、加子母にとって明るい材料だ。それだけ職業が多様化し、地歌舞伎文化など地元の魅力が増していることなのだろう。

 

特別編集委員 足立 則夫(62)