2010年12月18日 連載12

山林の職人
良質な森、いかに守るか

杣職の安江正秀さん(33)と一緒に、朝から加子母の森に入った。
杣とは、山林所有者の依頼でヒノキやスギを伐採する職人。安江さんは所有者と相談しながら、山林の手入れもする。苗木を植え、5年ほどは苗木に日光が当たるように下草を刈る。次に周囲の気と枝が絡まないように間伐する。10〜12年たったところで周囲の灌木を除木したり、材木に節ができないように枝打ちしたりもする。
幼いころから、父親が勤務する製材所や、自分の家の山林でよく遊んだ。岐阜県林業短期大学校に進み、上矢作町(現恵那市)の森林組合に就職。「山が大好きだから杣になった」。3年後、地元の加子母森林組合に移る。山を守るグリーンキーパーとして7年働き、30歳で独立した。
注文を受けるだけではない。木の実のなる広葉樹なども植えて、山林の保水性を高め、動物もすみやすくする。自分なりの森のプランを所有者に提案し、持続性のある山林づくりを目指している。
加子母は94%が山林だ。ほぼ半分が民有林で、残りの半分が国有林。
加子母森林組合の組合長、内木篤志さん(59)によると、加子母の全世帯の8割にあたる841人が山林を所有し、組合員になっている。山林所有者は随時の出費があるようなときに、木を売る。
加子母では、山の基盤は道づくり、と代々の村長が林道を整備してきた。だから、山の手入れがしやすい環境が整っている。不足しがちな杣など山林の作業員も、森林組合がグリーンキーパーとして養成し、30%の12人が定着。安江さんのような杣職も現れているので、そう問題はない。
目下の課題は、いかに山林に資金を還元し、いい環境を持続させるかだ。輸入材によって押し下げられる木材価格対策として森林組合が立てる作戦は2つ。
ひとつは、1枚の山林を、林齢を30年ごとの間隔で構成する複層林にして、安定収入を目指す。もう一つは、消費地の木造建築の工務店と提携して、市場価格より高値で加子母の木材を丸ごと買い取ってもらう。共にスタートしたばかりだ。
中川護さん(68)の案内で国有林も見学した。彼は現在、地元の中島総合研究所所長。長年、名古屋営林局に勤務し、加子母の国有林を管理する付知営林署(現東濃森林管理署)の署長も経験した。
国有林には全国でも珍しいヒノキの天然林が残っている。一画には、20年に1度遷宮する伊勢神宮の御用材の一部を供給する木曽ヒノキ備林もある。国の財政事情により天然林がすべて伐採される恐れもある。中川さんはヒノキの巨木を見上げながら言う。「この天然林は宝です。なんとか残さなければなりません」
良質な山林をいかに守るか。加子母では問われ続ける。

 

特別編集委員 足立 則夫(62)